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大阪地方裁判所 平成10年(ヨ)3679号 決定 1999年1月25日

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別紙当事者目録

(ただし、「債務者代表者理事小山昭夫」の次行に「右代理人弁護士木村修治」を挿入する。)記載のとおり

主文

一  債権者が債務者に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、債権者に対し、平成一〇年一二月から本案の第一審判決言渡しに至るまで、毎月二五日限り月額金三六万九九七〇円の割合による金員を仮に支払え。

三  申立費用は債務者の負担とする。

事実及び理由

第一申立ての趣旨

主文と同旨

第二事案の概要など

一  事案の概要

本件は、債権者が債務者より、平成一〇年一一月一六日付けで、申立外医療法人恒昭会(恒昭会)の設置する藍野病院への在籍出向を命ぜられたが(本件出向命令)、債権者において、右出向命令は無効であると主張して右命令に従わなかったところ、債務者が債権者を平成一〇年一二月一五日付けで解雇したので、債権者は右解雇の効力を争い、債務者を相手方として、賃金の仮払などを求める仮処分命令を申し立てた事案である。

二  前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び疎明資料により明らかに認められる事実)

1  債権者は、大学卒業後の昭和五九年四月以降、事務職員として、債務者が設置する藍野医療技術専門学校、藍野学院短期大学、滋賀医療技術専門学校などを経て、平成九年一一月一六日以降藍野学院短期大学図書館付として勤務していた。

2  債務者は、昭和五四年九月一四日に設立された学校法人で、藍野学院短期大学、藍野医療福祉専門学校、滋賀医療技術専門学校を設置している。

3  平成一〇年九月一日、債権者は債務者から、恒昭会の設置する藍野花園病院への出向命令を受けた(第一次出向命令)。

4  債権者は、第一次出向命令の効力を争い、当庁に債務者を相手方として、賃金の仮払などを求める仮処分命令を申し立てた(当庁平成一〇年(ヨ)二七八八号事件)が、債務者は、平成一〇年一一月六日付けで、債権者に対する第一次出向命令を取り消す旨の意思表示をした。

5  債務者は、債権者に対し、平成一〇年一一月一六日付けで、本件出向命令を発した。

6  債務者は、債権者が本件出向命令に従わず、就業規則五六条四号(性行が勤務に適格でなく改善の見込がないとき)に該当するとして、平成一〇年一二月一五日付けで、債権者を解雇する旨の意思表示(本件解雇の意思表示)をした。

第二(ママ)主な争点

一  債権者は、昭和五九年、債務者との間で雇用契約を締結したのかあるいは恒昭会との間で雇用契約を締結したのか。

二  本件出向命令の根拠如何

1  債権者と債務者間で、債務者のグループ会社である恒昭会への出向につき包括的同意がなされたかどうか。

2  債務者の就業規則上、債務者の労働者に対する出向命令権の存在が規定されているといえるかどうか。

3  債務者の労働者は、債務者とそのグループ会社である恒昭会との間で出向するとの慣行が確立しているかどうか。

三  本件解雇の意思表示の効力如何

四  保全の必要性

第三裁判所の判断

一  争点一について

疎明資料(<証拠略>)及び審尋の結果によれば、債務者は、職員の採用につき、遅くとも昭和五八年四月以降、文書によっていたこと、債権者は、昭和五九年四月一日付け文書によって、債務者から債務者の職員を命ずるとの辞令を受けていることが認められ、右事実からすれば、昭和五九年、債権者は債務者との間で雇用契約を締結したものと一応認められ、右認定を左右するに足る疎明はない。

なお、債務者は、債権者の出身大学が、恒昭会設置の藍野病院に対し、債権者の採用に関する礼状を差し出していることなどをもって、昭和五九年四月、債権者を採用したのは恒昭会であると主張するが、右礼状(<証拠略>)は、昭和五九年ころ、債権者の出身大学が債権者の採用主を恒昭会と認識していたということは言えるものの、いうまでもなく、雇用関係の有無は債権者と債務者ないし恒昭会との間の法律関係なのであるから、債務者と債権者間の法律関係の存在につき債務者の認識を表した資料(<証拠略>)などに比べれば、債権者と債務者間の雇用関係の存在の有無に関する疎明資料としての信用性は格段に低いものと評価せざるを得ず、右礼状などの存在をもって、前記認定を左右するに足りないというべきである。

二  争点二について

1  争点二1について

債務者は、債権者と債務者間で、債務者のグループ会社である恒昭会への出向につき包括的同意がなされた旨主張するが、これを一応にしろ認めるに足る疎明はない。

2  争点二2について

疎明資料(<証拠略>)によれば、債務者の就業規則上、学院外に出向し、他の業務に従事するときは休職とする(五二条一項五号)旨の規定があることが認められる。

ところで、出向を命ずるには、労働者の承諾その他これを法律上正当づける特段の根拠が必要であるところ、就業規則に出向義務を明確に定めた条項がある場合は右特段の根拠にあたり、使用者は出向命令権を有すると解すべきであるが、就業規則に労働者の出向義務が明確に定められていると解しうるのは、就業規則上、「出向」、「社外勤務」など他社の指揮監督の下で業務に従事することを明らかにする文言が置かれているなど、労働者の出向義務の発生自体を明らかにする規定がある場合であるというべきで、本件のように使用者が労働者に休職を命じうる場合の一事由として出向を規定しているに過ぎない場合には、就業規則上、労働者の出向義務を明確に定めたものとは解されないというべきであり、その他、債務者の就業規則上、労働者の出向義務を明確に定めた条項は存在しないので、債務者の就業規則によって、債権者に本件出向命令による出向義務は発生しないというべきである。

なお、債務者は、学長などは、業務の必要により、職員の職場の変更又は職種の転換を命ずることがあること、職員は正当な理由なくして、これを拒んではならない旨の規定(<証拠略>)をもって、本件出向命令の正当性を基礎づける債務者の就業規則上の根拠規定であると主張するが、まず、右文言自体、債務者において労働者に対し、債務者における内部的な就労場所の変更あるいは従事する職種の転換を命じうることを規定しているに過ぎないと解するのが日本語として素直な読み方であろうと解されるし、前記の判断基準に照らしても、労働者の出向義務の発生自体を明確に定めた規定とはとうてい解しえないので、債務者の右主張は採用できない。

3  争点二3について

(一) 疎明資料及び審尋の結果を総合すれば以下の事実が一応認められる。

(1) 事務職員の出向につき、恒昭会から債務者への出向は従前から行われていた。

(2) 事務職員の出向につき、平成五年に恒昭会に入職した申立外水野奈々枝が平成七年、債務者から恒昭会の設置する藍野病院へ転籍した例があるものの、債務者から恒昭会への転籍がかなりの人数で実施されるようになったのは平成九年以降である。

(3) 恒昭会の就業規則上、従前は、債務者の就業規則六条(学長などは、業務の必要により、職員の職場の変更又は職種の転換を命ずることがあること、職員は正当な理由なくして、これを拒んではならない旨の規定)と同趣旨の規定が置かれていたが、就業規則が改定され、平成三年一〇月一日付けで、病院は職員に対し、業務上の必要により、関連病院、関連会社及び関連学校に出向または転籍を命ずることがあること、職員は正当な理由なくしてこれを拒むことはできない旨(一三条)の規定が施行されているものの、債務者の就業規則は従前のとおりである。

(二) 右によれば、事務職員の出向につき、恒昭会から債務者への出向は従前から行われていて、従前の慣行を前提として、平成三年には、恒昭会の職員の出向義務を明確に定めたものと解される就業規則の改定がなされているのに比し、債務者から恒昭会への出向は、平成七年に一例あるものの、かなりの人数で実施されるようになったのは、平成九年以降であり、債務者の就業規則も従前のとおりであることが一応認められる。右事実に照らせば、いまだ、事務職員につき、債務者から恒昭会への出向が慣行として確立しているとまでは一応にしろ認め難いし、その他これを一応にしろ認めるに足る疎明はないと言わざるを得ない。

4  以上によれば、本件出向命令は、債権者の同意がなく、その他法律上その正当性を基礎づける事実も認め難く、無効なものと言わざるを得ない。

三  争点三について

そうすると、債権者が無効な本件出向命令に従わなかったことを理由とする本件解雇の意思表示も無効なものと解さざるを得ない。

四  争点四について

1  債権者は、債権者が債務者に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めることを求めるところ、債務者はこの地位を争っていることなど本件疎明資料及び審尋の全趣旨を総合すれば、右申立ての部分につき保全の必要性があることが一応認められる。

2  また、債権者は、債務者に対する雇用契約上の権利を有する地位に基づき賃金の仮払を求めるところ、本件疎明資料及び審尋の全趣旨を総合すれば、債権者は債務者から支給される賃金により自己及び妻、子供二人の家族の生計を支えており、債権者がその賃金の支給を停止されたことにより自己及び家族の生活に危機を生じさせていること、債権者が生活を維持するのに必要な一か月当たりの賃金は平成一〇年六月ないし八月に債務者から支給された給与の手取額の平均額である金三六万九九七〇円を下回らないこと、債権者に未払給与分を含めて平成一〇年一二月から本案の第一審判決の言渡しまでの限度で、毎月二五日限り、一か月金三六万九九七〇円の割合による賃金の仮払を受けさせる必要があることが一応認められる。

五  以上のとおりであるから、被保全権利及び保全の必要性が疎明されたというべきであり、債権者の本件仮処分の申立ては理由があるので、事案の性質上債権者に担保を立てさせないで、主文のとおり決定する。

(裁判官 尾立美子)

当事者目録

債権者 小阪克彦

右債権者代理人弁護士 工藤展久

債務者 学校法人藍野学院

右代表者理事 小山昭夫

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